いつでも身に付く運動能力

身体活動と運動は健康的な生活に欠かせません。
若かりし頃から染み付いている運動習慣を持ち続けていたり、高齢になってから運動を始めても決して遅くないと思う実例をご紹介します。運動を始める切っ掛けや経緯は様々ですが、継続することのたいせつさがお分りになると思います。

「穏やかさん」（声風、口調ともに優しい語り口のおばあさんの愛称）は、歩行の際には車輪の付いた歩行器を愛用されています。その補助には似つかわしくないほど歩き方がしっかりしていて、且つ歩行速度が速いのです。「もともと歩くことが好きなので・・・。」というご家族のお話しもあって、若かりし頃に何かの運動競技をされていたようだと思っていました。そこで先日、ご自宅に送っていく車中で尋ねてみました。「穏やかさん、今までずっと思っていたんだけど、歩くのが早いしっかりとした歩き方でいらっしゃいますよね。若いころに何か運動していたの？」と。すると「短距離走。」と答えてくれました。聴くところ、お姉さんの方がもっと速かったそうで、姉妹ともども大会にも出場した経験をお持ちだったのです。若かりし頃に身に付けた運動能力は、衰えども全くの「ゼロ」にはならない貴重な財産でしょう。しかもご自分で歩こうと思い実践されていることに感心しました。若いころの競技スポーツが高齢者にふさわしい健康運動に変わったのでしょう。
おばあさん、あなたの愛称を「韋駄天さん」に改めますね。

「デパートガールさん」（ご家族そろって銀座の老舗デパートでお勤めしていたおばあさんの愛称）は、神経系に障害があるのか？立ち上がるとふらつき、歩く際には手を添えて、からだを支えないと転んでしまう可能性が大きい方です。それだけ不安を感じる歩き方でした。今になって ”でした” という過去形で表現できるにはわけがあります。
新型コロナ禍の閉じこもり生活が続いており、​運動不足による筋肉の減少や衰弱が社会問題にもなっています。フレイルからサルコペニアに悪化してしまいます。
そこで息子さんが心配されて、毎朝筋トレの代表格のスクワットに付き添っていらっしゃるとのこと。今まで行ってこなかった運動習慣なので、デパートガールさんご自身も気が進まなかったのかも知れません。けど「無理やりにでもやらせてます。」という、意を決したご家族でしかできない強制力で、毎朝の習慣にしていらっしゃいます。そんな運動習慣のお話しを聞いて、やっぱり効果が出てきたんだな！！と感じる歩き方に変わったのです。しっかりとした足取りなので、介助する側もむかしに比べて安心できるようになりました。強制されなくても自らすすんで励行して欲しいので、今の改善ぶりを客観的にしっかりと伝えるよう心掛けています。今の上達さをほめて差し上げるのです。そうすれば最初は息子さんと喧嘩しながら行っていたであろうスクワットも、今は続けてきて良かったと、うれしくなって元気になるはずですよね。
筋トレは筋肉を増強させるだけでなく、筋肉を動かすための神経の働きを改善してくれる。（＊）
レジスタンス運動の恩恵を受け取ることができた好例なのだと気付きました。

先日ご両人を同じ送迎車にお乗せする機会がありました。ミラー越しに映るお二人のご様子を見ると、なんだか頼もしく感じてしまいました。始める時期が早くても遅くても、運動を続けることに強い自信を持ちました。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　【出典】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（＊）健検公式テキスト 増補改訂版　注目が集まる筋トレの効果